過去のSEO事業から考える事業分岐点

話がどんどんそれていっている気がするが致し方がない。先だって非常に興味深いエントリーを拝読した。

もう10年前の事になるがSEO専任エージェント事業を行っていました。最初は営業責任者として。後に設立した会社では役員として。

すったもんだあって数か月で退任してしまったのだけれどSEO業界には2年弱関わっただろうか。当時日本にはSEOというか、検索結果からユーザトラフィックを獲得し、コンバージョンするという意識が希薄な面がありつつ。その一方でYahoo!ディレクトリ登録代行やメルマガ広告、サーチワードバナーが咲き誇っていました。スカイクレイバーとかも出ていましたがCTRが低下してきたり、リサーチワードの取り合い、或いはバナークリエイティブで競争が起きるなど
色んな事が起きていて非常にガヤガヤとした時期でした。

そんな時代背景の中、妙な流れでSEO業界に顔を突っ込んだことは非常に有益な体験でもあったし、エントリーを拝読してSEOコンサルティング業界の収益構造は変わっていないのだなとも思った。当時の関係者にはまだ第一線の方もいるので、極力判らないように色々端折って書いてみたいと思う。

なんというか…それが今後のSEO業界やウェブコンサルティング業界を目指す人たちにとって事業ポートフォリオを組む際のヒントにでもなればいいな、という程度の考えです。

>> 参考:SEO業というビジネスモデル

SEOコンサルティングの内容

2001年末ゴロからポツポツ出始めてきていたSEO。当時SEOについては米国では既知の概念でありカンファレンスなども行われていましたが、日本国内では非常にマイノリティなサービスで知識は世の中にはまだまだ出回っておりませんでした。

ただ個人でサービスを行っていたり、法人として取り組まれている企業も複数社出てき始めておりSEO専任会社としてベンチマークしていたのは4、5社位ありました。その他個人事業主の方々(恐らく登録代行業務からステップしてきた方)がサイトを立ち上げていたように記憶しています。”SEO”で検索すると某地方にある自転車屋さんが常に1位表示されていた時代です。(知っている人は知っている小ネタ)
 
当時の手法を大雑把にいうと

    ・サイトテーマを明確にするサイト作りアドバイス
    ・HTMLソースの記述の見直し
    ・1ページ1テーマで記述し、画像テキストやFLASHは使用しない
    ・内部リンクを正しく張り巡らせる
    ・サイトマップを制作し読み込ませる
    ・外部の有料ディレクトリエンジンには極力登録する
    ・サテライトドメインを構築し、中心となるサイトへのリンクを貼る

※自社ではドアウェイページと呼ばれるものは採用していなかった

こうした項目を企業に提案して、受託したところで

    ・HTMLファイルを預かり1-2週間で内部HTMLチューニング
    ・サテライトドメイン構築作業
    ・検索エンジン登録代行
    ・検索キーワード(フレーズ)によるランキングレポート作成(Google,Yahoo.Lycos,infoseek,MSNだったかな)

を行い、チューニング済みのファイルをCD-ROM(!)に保存して、納品に行って本番サーバとの差異を確認してもらい、検収したうえでファイルを差し替えて検索エンジンが読み込むのを待つ。という流れだったと思います。
 
その後は毎月更新されたHTMLファイルを預かりチューニングし、戻し更新するの繰り返し。そしてGoogleのDB更新に合わせてランキングレポートを作成し、それを見ながら打ち合わせるという流れが(恐らく)一般的なSEOコンサルティングでした。

料金はどこで発生する

1.月間固定金制
2.月額固定額を若干OFFにする代わりに+ランキング変動による月締ランキングによる成果報酬型
3.HTMLチューニングの内部施策書レポート販売

大まかにいうと料金はこうした部分で発生する。基本的な料金表があったうえで、営業状況やニーズに応じて価格を調整していた感じ。

なにしろSEOというサービス自体がみんな初めて相場というものがない。ないものは作るしかない。ということで工数から逆算して価格を決めていくのだけれど検索エンジンからのCVRやROIを取得していた企業が当時はそもそも少ないのだから社内での基準がなく困っていた会社も多かったと思う。

かかる経費をざっと想定してみる

まず固定費に目を向けてみる。
ぼくは営業責任者の時も役員のときも小さな会社だったおかげで、役員を含む全スタッフ給与や会社の支払い状況、キャッシュ状態を把握し管理し報告する役割を担当していた。
 
というか社長がそういうことをやらせてくれる人だったので、これは非常に貴重な経験になったと思う。何しろ1人で監査法人の株式公開部に出向き、事業計画書の作り方を習ったりサンプルをみせて貰ったり投資家の人にあって話す機会を20代でできたのだから。今では珍しくないこんな話も10年前では、少なかったと思う。

さて固定費についてですが、メモも何もないので記憶の奥底から引っ張り出してみます。あまりに現実をそのまま引用してもアレなので少し数字は丸めていますが、大概の会社の構造とさほど変わりはないと思います。

    ・役員報酬(福利厚生費込):80万円×3名※当然営業も兼任している
    ・コンサルタント(SEOエンジニア)人件費(福利厚生費含む):60万円×4※営業兼任もいる
    ・事務員人件費(福利厚生費込):30万円×1名
    ・アルバイト×3名:30万円(シフトなのでこれくらい)
    ・家賃:25万円
    ・事務用機器リース代:5万円
    【合計:570万円】

ここに変動費を差し込んでみる

    ・業務委託費:100万円前後(独立したSEOエンジニアへの成果報酬支払いがあった)
    ・会議諸経費:2万円
    ・水道ガス光熱費:5万円
    ・雑費消耗品:3万円
    ・通信費:3万円
    ・交通費関連:7万円
    ・その他:3万円
    【合計:123万円】

ここで合計690万円ぐらいかかって来るわけです。人数で言うと

    ・役員・従業員=7人
    ・アルバイト:3人
    ・外部エンジニア:2人

なんだかんだで12人。フルで動いているわけではないスタッフもいますがなかなかの所帯です。スタートアップにしては多過ぎるのですがSEOを行うために創業された会社ではなかったりと経緯が色々あるのでまぁこうしたもんだと思ってください。

さらに役割で(一部兼任はあり)書き出してみると

    ・法人営業担当者:4人
    ・コンサルタント(SEOエンジニア):7人(アルバイト・外部はフル稼働ではない)
    ・事務担当:1人

というような役割配置になります。コンテンツチューニングを行うことになると業務量は受注量(受領ページ数)に応じて拡大し一人が担当できるサイト数に限りが生じるので、このくらいになったのかなという印象です。

経費を補う売上はどのくらい必要なのか

こうなるとどのくらい売上げなければいけないのか、という話ですがまず原価/販売管理費で690万円あります。

SEOを内製で受託しているので、粗利益率88%くらいでした。ですので、月商目標売上高は800万円になります。これを1人の営業に割り振りますと法人営業担当者が4人いるわけですから

    ・月間予算目標:200万円
    ・四半期予算:600万円
    ・半期予算:1,200万円
    ・年間予算:2,400万円

となり、会社としての予算は「9,600万円」が通期予算になります。これを社長に提出すると当然のごとく、突き返されることになります。

「利益を産み出さない会社に存在意味はない」

そりゃそうです。収支がトントンであれば雇用も維持できないし拡大もできない。何よりも損益計算書上±0というのはキャッシュが回らない可能性が大です。特に納税時期や社会保険納付時期など資金繰りにかなり慎重にならざるを得ません。そして黒字倒産というのは意外と多いものです。ということで、せめて売上予算を1億円にすべし、と戻ってくるのです。

売上高が1億円あったら

    ・売上高:1億円(月間:833万円⇒850万円になぜかなる)
    ・売上利益:8,800万円
    ・販売管理費:8,316万円
    ・営業利益:484万円

どうでしょうか。この数字をどう捉えるかでSEOコンサルティング単体で事業拡大を狙うことについて判断が出てくると思います。

何を価値として提供していくのか

運営側の理屈が見えたところで今度はサービスとしての価格を見てみます。上記を基に提供価格を決定していくという積み上げ残方式ですね。大雑把にいうと前述のサービス提供の中で一番狙っていたのは

1.月額固定での受託

になります。契約を重ねるほどキャッシュは安定するわけですので経営管理上のリスクは減少します。

また成果をしっかり出すことでトラフィックの増加もでます。そのことによりコンバージョン数も率も改善されるわけですから顧客も契約の継続を望むわけです。契約期間中のフォローや重なるミーティング、そして何よりも結果パフォーマンスにより信頼関係も高まるでしょう!

作業コストから価格を決めていく

ここでリンク先でも触れられています。SEOエンジニアが担当できるサイト数を考慮する必要があります。

SEOといってもSIの受託開発と同じように開発工程管理をしっかり行っていないと、とんでもなく悲惨な状況になってしまうのです。当時は大体5サイト/人がMAX稼働設定だったように記憶しています。

SEOエンジニアは7人いますので理論上は35サイト受注できるということになります。ここに850万円の月商予算を35サイトで割り当ててみましょう。

【850万円÷35サイト=242,857円】

となるとまず仮置きの提供価格は30万円からと設定します。ただしこれは35サイトをフルに契約している状態です。そしてこの数値に到達するには時間が必要です。更に契約が継続されるとも限りません。こうした事柄を考慮すると40万円~は頂戴しないとサービス提供者は倒れていきます。

40万円×6か月=240万円

これは発注元からすれば広告費として予算計上されているわけですからROIやROAS試算したときにROIは+になっていなければならず、ROASが100%を超えていることが好ましい訳です。

純利益でこの数字をSEOを実施することによって上積みすることができるウェブビジネスを行っている会社といえば中々絞られてくるのではないでしょうか。しかもSEOは今日からはじめて明日結果がでるサービスではないのですからね。

という訳で、当時のやり方を振り返ってみても”SEOコンサルティング”単体での大幅は伸びは難しく事業としては停滞していくのも判る気がします。

今のSEO事業はどうなっているか

株式会社アイレップ決算短信
http://www.irep.co.jp/ir/library/pdf/130213_kessansetsumei.pdf
2013年9月期第1四半期のSEO事業売上:233百万円

アウンコンサルティング決算補助資料
http://www.auncon.co.jp/ir/pdf/20130110-2.pdf
2013年5月期第1四半期のSEO事業売上:82百万円

2013年4月期第2四半期決算資料
http://www.fullspeed.co.jp/img_item/ir_news/explain/ir_2012_12_07_343.pdf
※フルスピードさんのSEO単体の売上は発見できず
2012年度の売上:110億円、SEOが包括されているメディア情報事業の売上比率が
0.6%ということで
メディア情報事業売上:推定66百万円

労働集約産業ですので、SEOコンサルティングだけで規模拡大は難しいものですよね。特に上場されている(目指している)といわゆるブラックハットな手法には手を出しにくく、また業界リードとしてのポジショニングも期待されるわけですから王道を歩んでいく必要があると思います。

こうした制約の中で組織成長にドライブをかけていくためにはSEM領域やアドテクノロジーに経営の舵をきり、資金を確保し、組織を拡大し規模追求を行うことによって、ウェブマーケットシェアを狙うという戦略になっていかざるを得ないのでしょうね。

拡大への3つの分岐点

ところで当時のぼくらにこうした拡大の機会がなかったのか、と言えばやはりあるのです。ポイントは3つありました。

1)overture,Googleのリスティング広告代理店事業の拡大

代理店こそなったのですが、専任営業担当を拡充せずSEOの補助サービスと位置付けたのですよね。

利益率はご存知のように非常に低いサービスですが売上規模は狙えます。ということはキャッシュが回る事業だともいえます。更にはここを突破口に受注領域を広げていくなどの様々な戦術も想定されたと思うのですが戦略としてここを突き詰めなかったことは、今振り返ればミスだったと考えています。

2)広告代理店経由の受託拡大

当時大手のレップさんや外資系代理店から仲介されたSEO受託が全体の30%程ありました。ここを拡大していくという考えもあったでしょう。また当時代理店はリスティング広告の運用についてはノウハウも体制もありませんでしたし
手間暇がかかるリスティング広告の運用を行いたがらなかったのです。

広告にとって「運用」という考えが従来はあまり見られなかったのもその一因だと思います。そこで出てきたのが運用代行というスキーム。その流れから専門エージェントが創業されていったように記憶しています。また更に当時僕に声がかかってきたのは、協業していた大手広告代理店の方から


「打ち合わせで行ったり来たりするのは面倒なので、自社内の一角にオフィスを設けないか?」

というものでした。「これってアレだよな」と個人的にはピンときて、いい機会だと他の一部役員や信頼できる知人からも「イットケ!」と押されて。もう通勤経路も変更する気満々で、起床時刻も変更するつもりになり飲み会の場所も変わるなこりゃとか、綺麗なお姉さんたちに囲まれる生活も想像してニヤケていたのに、結果的には反対多数で可決され実現しませんでした。

「取りこまれるのは嫌だ」とかいう理由だったと思う。(恵比寿で働いてみたかったなぁ。。)

3)SEOツールやノウハウの開示

現在でいう所のインバウンド/コンテンツマーケティング的なことに取り組めなかったことが非常に痛いところでした。ブログも開設せず、有益な情報をリリースするわけでもありませんでしたので

オンラインビジネスを提供している会社にも関わらずテレアポで新規顧客を獲得する

というSEOなんだか、リクルート的か大塚商会的なのか判らない営業戦術が踏襲されており、さりとて肉食系な営業組織かといえば、非常に草食系な組織風土で事業が継続しておりました。時代背景がこうした営業戦術手法を
まだまだ期待されていたという面も確かにありますが、ぼくの好きなFFS理論的にいえば

  • 拡散性の高いメンバーで構成される攻撃的な組織ではなく
  • 凝縮性と保全性の高いメンバーの方が多い守備的な組織

になっていたのです。立ち上げ創業期の会社の組織編成としてはとてもアンバランスな編成ではないでしょうか。

つまり重要なことは

組織戦略、人材配置のミス、全体戦略と個別戦術の最適化ができなかった
というのがぼくの結論です。1つ狂うと全てが狂うということですね。業界的にいえば様々なところで指摘されているようにSEO/SEM業界は岐路に立ってきていると思います。

当時よりもフリーで動ける方も多くなりました。情報も非常に氾濫しております。

それでもSEOを正しく理解していない方も多いことでしょうし、テレアポや飛び込み営業を続けている会社も多くあります。

どちらがいい/悪い、スマート/スマートでない、という切り分けではなく正しい知識が、正しい倫理観のもと業界が成長していければいいなと思っています。これはSEO/SEM業界だけではなく、属することが多かった人材サービス業界でも同じことです。

そうした意味でもインバウンドマーケティングが持つ性善説的な考えであったり、IMJが発表したNPSという概念に基づく調査レポートは非常に興味深いものです。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20080409/298541/
NPSについて:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20080409/298541/

SEMファームからデジタルマーケティングエージェンシーへと転換できる組織がきっと生き残るのでしょう。その中でも文字通り転換に合わせて採用・組織・人事評価/報酬設計・企業文化・マネジメントスタイルを最適化していくことができる組織が残っていくのだろうなと思います。

どんなサービスを提供するにも変わらないことだと思うのですが、「サービス・商品」を提供することによって、どんな「価値」を顧客が得ることができるのかを自分たちの中でも明確にしておくことがとても重要だと思うのです。

そのことは例えば営業担当者が顧客と話を行う際のトークのストーリーを構築することにもなります。

あるいは組織が物事を決定する際の判断基準にもなります。また人材配置や組織変更といったの際の考え方にもなります。何よりも一貫した考えのもとにサービスを提供できるのは、誰にとってもブレがなく非常に心地よいものになると思うのです。

そももそ自分たちの中で明確でないものをどうして人に薦めることができるのか、と。その考えのもとは個人個人がもつ倫理観に基づいて発信されてくるものだとも思います。だから経営者にはナンヤカンヤ求められるし期待もされるし、それを理論的な裏付けをもって、説明するスキルも求められると思うのですよね。

あ、話がずれてきた。
とりあえずSEOコンサルティング単体で拡大スキームはちょっと厳しいし、他に柱を作らないといけないよね、という結論は、何の事業でも共通するポートフォリオマネジメントが肝になるっていう話ですね。
(こういうのひっくるめて社長の持っている運だとは過去に言われましたけれど)


 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でフォローしよう!